本の紹介『東電OL事件』

先日、神保町をブラブラしていたときに目にとまって買った本です。

読売新聞社会部 『東電OL事件 ーDNAが暴いた闇』 中央公論新社、2012年

これは東電に勤めていた女性が絞殺された事件でネパール人の容疑者が逮捕され、15年間の投獄生活を経て無罪となった事件の、再審から無罪にいたるまでの経緯を追ったドキュメントです。2012年度の新聞協会賞を受賞したものだそうです。

いま、DNA鑑定は相当進歩しており、ほぼ間違いなく犯人を特定できるそうです。この事件が起きた15年前はまだそこまでの精度がなかったらしく、このたび無罪となったマイナリさんの他にも容疑者がいたようです。しかし、いろんな要素を再考することもなく、検察は自らの決めつけでマイナリさんを追い詰めていったようです。本書によると、外国人だから強盗殺人をやるだろうという先入観があったようです。マイナリさんは不法入国ではありましたが、生活に困るほどではなかったようですので、その辺も調べないで「生活資金に困った外国人不法就労者による犯罪」が組み立てられていったのです。

裁判は人間が人間を裁く時点で、完全な公平性は実現できないと思っています。実際に裁判戦略上、検察や裁判官の心証を悪くするような行動は慎むなどの話が本書でも出てきますので、その時点で公平ではないことを証明しているでしょう。

アメリカのドラマで「CSI」シリーズがあります。ご存じの方も多いでしょう。うちの妻がよくケーブルテレビで観ているので、つい一緒に観てしまうことも多いのですが、このドラマでは科学捜査が主体ですので、DNA鑑定がよく出てきます。それらをもとに証拠を積み上げていって容疑者逮捕、というのがこのドラマの流れです。いま日本の現場がどうなっているのかは知りませんが、科学捜査の進歩がないとマイナリさんのような被害者が減ることはないでしょう。

なお、この事件については佐野真一氏の著書をはじめとして、いくつかの書籍が出ています。事件の裏側を知りたいのであれば、そちらがいいのではないかと思います。こちらはあくまでも再審に関するドキュメントなので、そこは注意が必要です。

個人的にはこういった新聞連載のドキュメントが好きですので、評価はちょっと甘めになります。

評価:★★★★☆

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