本の紹介『デフレーション』(追記あり)

アベノミクスは果たしてうまくいくのだろうか?

吉川洋 『デフレーション』 日本経済新聞出版社、2013年

いまをときめくデフレについて書かれた本です。なんでデフレになるのか、どうすれば解消できるのかについて、過去の事例などを紹介しながら解き明かそうという本です。

金融緩和をバンバンすれば、いつかはインフレ傾向になるというのがアベノミクスの肝であると理解していますが、一般的に流動性の罠に陥っているといわれている現在の日本でそれは可能なのでしょうか?いわゆるリフレ派の人たちはそれが可能であるとする根拠に貨幣数量説があると、この本では解説しています。引用します。

物価は貨幣数量(マネーサプライ)に比例するという貨幣数量説の命題は、名目物価の持続的上昇/下落であるインフレ/デフレはいずれも「貨幣的な現象」である、と言い換えられることもある。(100ページ)

とまぁ、貨幣的現象なんだから、ジャブジャブお金を市場にあふれさせれば物価あがるよ?というのがアベノミクスにおける物価の議論の根幹だと思われます。ただ、本書でも紹介されているように、マネーサプライ自体はいまの日本においても過剰だし、これ以上やってもねぇ、 という議論に対抗するのがインフレ期待です。

日銀がバンバン緩和するぞという姿勢を見せていれば、一般市民のインフレ期待が高まりインフレに向かっていくというものですね。アベノミクスがよりどころとしているクルーグマン論文では、期待があれば流動性の罠を脱出できるとされているようです。

ただ実際に私なんか金利が低いという前提で住宅ローン組んでますから、インフレで金利が上がったら困っちゃうんですよね。インフレになれば資産価値上がるからいいじゃないかという話もありますが、多分、そこにはタイムラグがあって、資産価値はじわじわしかあがらないが、変動金利は半年に一回は必ず見直しが入るので、先に支払いが増えちゃうんですよね。という意味では、期待しませんよ。少なくとも、私は。

さて、著者がデフレの原因として挙げているのが、名目賃金の低下です。実は日米欧の比較で1995年から名目賃金が下がっているのは日本だけのようです。アメリカに至っては2倍近く上昇しています。これでは消費も増えず、デフレからも脱却できないですね。自力で経済の活気を取り戻す、これが大事ですね。

今のホットなトピックに乗りたいのであれば、ぜひ読んでもらいたい本です。思い切って五つ星です。ただし、読解にはそれなりの知識がいるようで、私は一回で全て理解できたとは言えません。

評価:★★★★★


追記(3/14)
3/14付けの日経新聞の経済教室に岩井克人氏が次のように書いてました。ご参考まで。

 「インフレはいつでもどこでも貨幣的な現象である。それは貨幣量が生産量を上回って成長することによってのみ生じるからである」。かつてミルトン・フリードマンが声高に唱えた命題である。だがそれは誤っていた。貨幣成長率と物価上昇率の間に一義的な因果関係がないことは、多くの実証研究が示しており、貨幣数量説は既に学説史上の遺物となっている。


追記(3/15)
3/15付けの日経新聞の経済教室にご本人登場です。

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