本の紹介『死の淵をみた男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』

「おまえたちはそのまま海水注入を続けろ。いいな」

門田隆将『死の淵をみた男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』PHP研究所、2012年

夏休みの読書シリーズはこれで終了です。

本書は3/11の津波で機能を失った福島第一原発のさらなる暴走を食い止めるために闘う男たちに関するノンフィクションです。副題には先日亡くなった、福島第一原発元所長の吉田昌郎氏の名前が入ってますが、彼を中心に原発処理に関わっている人たちを広く取り上げています。

まず感想から言うと、これは年に一冊あるかないかの超絶オススメの一冊です。制御不能になりかけた原発を何とかコントローラブルにすべく、命をかけている関係者のインタビューを中心に構成されています。点検中に津波にあって命を落とした作業員の家族の話もあり、ところどころ泣かせられる内容となっています。

この手の検証本は、事象がすべて完了してから書かれるのが一般的だと思いますが、ご存じのとおり、福島第一原発での事象はまだ収まっていないどころか長期化すら予想されます。そしてその現場では、引き続き放射線との闘いを続けながら、いつ暴走するともわからない原子炉の制御に臨んでいる人たちがいるのです。日常では忘れがちな事だと思いますが、この事故は現在進行形で続いていると強く認識させられました。

最近ではニュースで報道されるのは汚染水関連ばかりで、こういった人たち、そして原発の状態そのものに関する報道はほぼ聞きません。知ったような顔のキャスターに批判の言葉を言わせてる時間があれば、ぜひとも現場の奮闘を紹介して欲しいと思います。

福島第一原発に関するドキュメントでは大鹿靖明氏の『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』も読みました(いま見たらKindle版も出てますね)が、どちらかというと舞台は東京という感じがします。今回の本の方が原発の現場の状況に詳しいと思いますので、あわせて読むとよりよいかと思います。

というわけで、最近乱発気味ではありますが、渾身の五つ星+αの評価です。

評価:★★★★★(+超絶オススメ)

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