本の紹介『限界費用ゼロ社会』

未来社会を記述することができるでしょうか。

ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭』柴田裕之訳、NHK出版、2015年

経済学を学ぶ人なら知ってるであろう、限界費用でございます。書名では限界費用ゼロですが、実際にはかぎりなく限界費用がゼロに近くなるという意味合いで書かれています。普通に考えればゼロはありえないので、といった意味では偽りの書名です。

さておき、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)が限界費用ゼロのポイントです。これまでの経済は稀少性が重要というものでしたが、これからはIoTの活用などで潤沢にものがあふれることで、それぞれの単価が下がっていくという主張です。例えば、3Dプリンターの普及で大規模な設備が不要になって、それも限界費用が安くなる要因だったりします。

そういう社会になっていくと、「協働型コモンズ」が発展するとしています。簡単にいうと、限界費用ゼロに近づくにつれて、私有財産という現代の資本主義が前提とする考え方が崩れ、みんなで財産を分けて生活するようになるというものですね。そこにはいわゆるフリーライダー問題が発生する可能性がありますが、協働型コモンズではそれやっちゃおしまいみたいな感じです。

そもそも協働型コモンズでは、所有というよりもアクセスという概念が重要になるというわけです。自分で持つのではなく、必要な時にアクセスする。カーシェアリングなんかがその一例になるんじゃないかと思います。

IoTによる限界費用ゼロ社会を目指すに当たって、エネルギーの確保が重要な課題であるとも述べています。インターネットは電気がなければ動きませんので、電力の確保が重要としています。今後のテロ活動がエネルギー源を遮断するようなものになると大きな問題に発展するので、それを防ぐ方策も必要である、と。

主張としては面白いと思いますが、現実的には本書の世界が実現するにはまだ時間が必要じゃないかと思います。とは言え、今後の社会を考察するヒントにはなると思いますので、★4つとします。

評価:★★★★☆

コメント

このブログの人気の投稿

通信三田会からの誘い

2021年度慶應義塾大学卒業式。そして卒業について思うことと心境の変化

keio.jpの登録