本の紹介『なぜ、残業はなくならないのか』

残業は構造的な問題。

常見陽平 『なぜ、残業はなくならないのか』[Kindle版] 祥伝社、2017年

最近(でもないですが)、過労死問題が騒がれてますが、その辺のネタも含めての本となります。著者はリクルートを皮切りにライターなどを経て、今は大学の教員をしています。著者自身もひたすら残業し、鬱病になったという経歴を持っています。

まずはデータの紹介から始まりますが、日本の労働者の総労働時間は減少を続けているというのはなかなか面白い話です。であれば、過労死自体が起こりにくくなっているはず。そして労働者の実感として、忙しさは減っているはず。しかしアンケートによれば、仕事が多いという課題は、労使双方が挙げる課題の上位です。仕事が多いのに、総労働時間は減少している。ということは、サービス残業が増えている可能性があり、それなら過労死という問題に繋がっていきます。

なぜ残業がなくならないのかという部分ですが、ひとつは構造的に残業をする仕組みになっていると指摘しています。例えば1.2人分の業務が発生したときにもう1人雇うのではなく、残業で対応するのが合理的としています。確かに一時的な対応としてはベストだと思われ、それが定常的に続くのであれば追加の雇用もあります。

また、残業代込みの生活設計が定着しているという話が出てきますが、確かに管理職になり残業代がつかなくなると一気に生活が苦しくなるという話はよく聞きます。残業代、ボーナスは追加の利益ではなく、それ自体が生活費になっているというわけです。

ライフワークバランスという視点からは、時間外労働を減らしていってということになるんでしょうが、減らすと生活が・・・というスパイラルに入ってしまうとなるとなかなか残業もやめられないですね。その辺の課題も含めて、社会全体が変わっていくのは相当時間がかかると思われ、まずは草の根運動的にできるところからコツコツとやるしかないのかもしれません。

評価ですが、書かれたのが最近なので、政府の働き方改革についても触れられていますが、新書の限界か、具体的な解決策などは乏しいのが残念です。

評価:★★★☆☆

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