本の紹介『21世紀の資本』

月末にはKindle版も出るようですね。

トマ・ピケティ『21世紀の資本』山形浩生ほか訳、みすず書房、2014年

6,000円、700ページの大著です。ひとことで内容を表すと

  r > g

です。この本はアメリカを始め、いろんな国で売上1位を獲得した本です。経済学の本が総合トップをとるのはかなり珍しく、それだけでもいかに話題になっているかが分かるというものです。

rは資本収益率、gはざっと言って成長率です。それで、上記の状態だと格差が拡がるというのが主張ですね。しかし、この本が評価されているのは、過去200年とかをさかのぼって、できるだけ信頼できるデータを集めまくり、それをもとに検証している点です。そのデータによると、過去、経済成長はおおむね1%程度を維持しています。よって、歴史的に見れば、いまの低成長と言われている状態が普通の状態なんですね。となると、gは1%付近に張り付いているのがトレンドとも言えるわけです。

一方で過去データは、rの方は5%くらいになっているわけで、これは要するに金持ちがさらに金持ちに、貧乏がさらに貧乏にということです。大雑把に言ってしまえば、いくら働いても金持ちにはなれない、金持ちは生まれつきのものだということになります。これが過去から続く状態なのだ、ということを明言しています。

ただ、これについては例外を示しています。そう、我々のような凡人ではなく、現代アメリカにおける「スーパー経営者」です。例えば、ベンチャー企業あがりの大富豪ですね。こういう人たちはr>gの法則を突き抜けてますので、例外だそうです。

とにかく、生まれつきリッチじゃない人たちはいくら頑張ってもリッチになれないというわけです。この辺が現代版マルクスの『資本論』と言われるゆえんでしょう。

後半は課税についての持論展開です。どの国も所得に関して累進課税をしていますが、その稼ぎに課税していてはいつまでも苦しい財政が続くとしています。実際に日本も含めて国債発行残高はかなりの額であり、ギリシャなどの財政破綻国家はいつまでもそれに苦しむことになる、と。

その解決策として過去のデータから見えるのは、インフレです。戦後の財政赤字はインフレで解消したというデータも示しながら展開しています。ただ、その解消の為にインフレに持ち込むのは近隣窮乏化になるので、それはどうかなと私は思います。

そしてもうひとつの策は課税対象を変えることです。労働収入への課税ではなく、資産に課税することで財政赤字は解消すると述べています。ただし、これは全世界で同時に進めていかないと意味がありません。なぜなら、資産に課税していない国に持って行けるものは持って行けばいいからです。実現性については本人も弱気ではありますが、後半部分はこの話がメインです。

評価ですが、正直なところ、多くはデータの紹介と分析なので、言いたいこと自体は限られていると思います。なのでピケティ教授の主張を知りたいのであれば、いくつかある解説本で十分だと思います。一方で経済学を学ぶ学生などはそのデータを有効に活用できますので、読んでおいて損はないかなといった印象です。という意味で、下記のとおりです。


評価:★★★☆☆+0.5

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