本の紹介 『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』

近年で最も勝った監督であり、最も嫌われた監督です。

鈴木忠平 『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』 文藝春秋、2021年

落合氏は現役時代からロッテファンでなければ中日ファンでもなかったのですが、個人的にずっと応援していた選手でした。皮肉にもジャイアンツに来る頃には私が千葉ロッテファンになっていたという。

監督時代は8年間ですべて3位以内、4回のリーグ優勝、5回の日本シリーズ進出、1回の日本一と文句ない成績と言っていいでしょう。勝つことを求められて監督に就任し、上記の成績を抑めるも、勝ちはするがつまらない野球、ファンサービスがなってないと実質解任されるという、いかにもオレ流。ただ、落合氏が言うのは、勝つことが最高のファンサービス。確かにそうですね。

YouTubeで選手たちが口々にオーソドックスな野球と言っていたとおり、確実に点を取りにいって堅い守備力で逃げ切るという、王道の野球を貫いた監督時代でした。しかし、手に汗握る投手戦ほど、見ていてつまらない試合はないですからね。そりゃあ、球団としてはファンサービスがなってないと言いたいでしょう。

そして、口を閉ざし本音を語らず、記者達からも嫌われていたが、懐に入ってくる記者には心を許す、そんな人物だったようです。そんなわけで、単独取材を何度も試みた筆者はそのうち移動のタクシーにも同乗できるような関係を築いたという次第です。

当時、大ベテランで特別扱いだった立浪選手の守備力の衰えをいち早く察知して、森野選手を鍛え上げてレギュラーにする、序盤から打たれまくっている状況で投手ではなく谷繁捕手を交代させるなどのベテランが激怒しようがお構いなしの忖度なしの選手起用の裏側などが克明に綴られています。

中日担当になったのが落合監督就任とほぼ同じで、先輩記者から落合の取材はするなと脅されていたにもかかわらず、入社当時の大先輩の言葉を守って取材を続けた結果がこの本なのでしょう。その大先輩も社内では浮いていたがスクープ連発の敏腕だったとのことで、その道を究めんとする先達の意見は重要なのはどの世界でも同じのようです。

それにしても、自分たちの感情にまかせて、嫌いだからと取材をしないような記者は何様なんでしょうね。記者の本分を忘れているとしか言いようがありません。最近のテレビ、新聞、雑誌はくだらないものばかりですが、本物の記者が作った記事、制作者が作った番組を多く見てみたいものです。

まぁ、ネットの方がもっとくだらないですけどね。ネット業界の禄を食む私が言うのもなんですが。

久々の五つ星です。

評価:★★★★★

コメント

このブログの人気の投稿

通信三田会からの誘い

2021年度慶應義塾大学卒業式。そして卒業について思うことと心境の変化

卒業式エピソードの続き