本の紹介『クライマーズ・ハイ』

日航機墜落事故から28年が経ちました。

横山秀夫 『クライマーズ・ハイ』(文春ウェブ文庫)、文藝春秋、2006年

1985年の日航機墜落事故をめぐる新聞記者の闘い、葛藤を描いた作品です。単行本としては2003年に出版されていますが、今回はKindle版です。なお、堤真一主演で映画化もされています。この時期になるとケーブルテレビではよく放映され、今年もやってました。

本筋は日航機墜落事故に関する新聞社内のあらゆる出来事ですが、それと並行して主人公の家族や友人との関係も描かれています。守らなければいけないもの、捨て去りたいもの、果たすべき約束、周囲からの嫉みなどがテンポよく描かれているという感想です。

事故をめぐってどこまで記事にするのかといった部分はなかなか面白いですね。例えば、幅広い読者がいる新聞というメディアでは、できるだけ520人が死んだという事実をソフトに表現する必要がある一方、インパクトで勝負しようとすると写真週刊誌には叶わない。その辺の葛藤はよく伝わってきました。あとは事故原因のスクープ記事を最後の最後で掲載しないという判断、これは映画ではクライマックスの場面でしたが、ここも緊迫感が伝わってきました。

そして最後のストーリー、ここでは伏せますが、泣けました。

さて、事故自体は当然、実際の出来事でして、私が小学6年生のときに発生しました。520人が命を落としたということもさることながら、もっとも心に残っているのは、生存者の一人である少女が自衛隊員に抱えられてヘリコプターに引き上げられるシーンです。彼女は私と同い年で、大変な事故に遭って家族を失ったものの、自分は九死に一生を得て救助されているというシーンに、衝撃というか何というか複雑な感覚になったことを今でも覚えております。

この事故に関する小説としては、山崎豊子『沈まぬ太陽』も過去に読んでいます。こちらはJAL社内が舞台ですので、そちらと合わせて考えてみると想像の翼も広がるのではないかと思います。

これは迷わず最高点をつけさせていただきます。

評価:★★★★★

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