本の紹介『イスラーム国の衝撃』

いつまで続くのでしょうか。

池内 恵『イスラーム国の衝撃』[Kindle版] 文春新書、2015年

著者はイスラム研究の若手の第一人者との触れ込みです。多分、テレビなどでもボチボチ出ているんじゃないでしょうか。

そもそも、イスラム国に関する疑問として、宣言は勝手にしたとしても本当に国を作ることができるのかということです。国となると土地が必要なわけで、基本的に世界中に領土的に空いている土地などあるのか、というのがピンとこなかったのですが、この本を読んで納得できました。

中東地域というと、実はいろんな民族がいるらしいのですが、中東は国ができるときに民族にあわせて土地が割り振られたようです。ただし、イラクのクルド人のように、まったく無視されてしまった民族もいたりして、そういうところでは国の統治というより民族の伝統的な自治みたいのがあるみたいです。イラクでよくクルド人が迫害を受けているというのは、そういう事情もあるようです。

というのがいろいろあって、国の中でも「統治の空白地域」というのが、けっこうあるようなんですね。アフガニスタンなんかも同じ事情らしく、タリバンの指導者たちが隠れていたのは地方の豪族みたいな人たちが実質に支配している地域らしく、国と言ってもまったく統治が及ばないところがところなのだそうです。

というわけで、イスラム国はイラクとシリアのそういった地域を実質支配して、国の樹立宣言をしたようです。

イスラム国の特徴としては、今までの国家ぽくない点ですね。情報戦略、人質を取って交渉材料にするなど、普段の報道でも目にするところですね。イスラム国がそれなりの規模で存続するとは思えませんが、政情が安定しない国家ではこういった形で新たな勢力で出てくることは想像できますので、国際社会の中でそれらが力をつけていくと、日本でも他人事ではなくなるかもしれません。

著者も認めているように、新書なので細かい論点まで突っ込めない、事態は刻一刻変わっているということもありますが、基礎的な知識を身につけるには十分な内容ではないかと思います。


評価:★★★☆☆

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