本の紹介『サカナとヤクザ』

必要悪、ということでしょうか。

鈴木智彦 『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』 小学館、2018年

著者はルポライターで、暴力団関連の分野を得意としています。以前、別の本を読んでなかなか面白かったので、その流れでアンテナを張っていたところ、本書のPRを見つけて目をつけていた次第です。内容は副題のとおり、密漁ビジネスについてです。

暴力団はいろんなところに目をつけて収益源を確保するわけですが、なぜ漁業かというと、手間がかからないからだそうです。農業や畜産業では育てる手間があるが、漁業は海で育った海産物を獲るだけなので元手がかからなくていいそうです。でも真っ当なビジネスでは儲からないので、密漁ということになるそうです。本書ではアワビ、ナマコ、カニ、うなぎの密漁ビジネスが紹介されています。

密漁といっても、漁業のもともとの性質などを考えると、どうしても密漁が発生しやすいらしいですね。要は、漁獲量の上限が決まっている場合、例えば10トンまでしか獲ってはいけないというケースで、網あげてみたら12トンかかってましたというときに、上限を超えた分は捨てるわけではなく、別ルートで流すそうです。これはある意味では仕方ない部分で、警察や海上保安庁なども取り締まらないみたいですが、そこに密漁ビジネスが繁栄する余地があるみたいです。そのほか、ナマコなんかは日本ではあまり食されないと思いますが、中国ではハレの日の高級食材としてのニーズが高く、そこで一儲けできるというわけですね。カニは北方領土がらみでソ連(ロシア)の経済的水域で大量に取れるが、そこでは当然密漁になるわけですが、見返りに日本の情報を渡して見逃してもらうみたいな話が紹介されています。

築地で取引されていた魚の中にも一定量の密漁でとれたものが混じっているなど、構造的にどうにもならんといった感じです。これをひっくり返すとなるといろいろともめ事が起きるのだろうなというエピソードが満載です。

いまの時代の視点で見ると暴力団が絡んでいて社会的に問題とはなりますが、むかしからの共存共栄という流れで考えると、今すぐにそれを潰すということではなく文化的な側面も持っているというのが話をややこしくしている要因かと思います。

評価:★★★★☆

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