本の紹介『独ソ戦』

けっこう前に買ったまま、なかなか進みませんでした。

大木毅 『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』 岩波新書、2019年

昨年、話題になった本です。結局、昨年の出版分を対象にした2020年新書大賞を取った本です。新書大賞のページはこちら。当初は独ソ戦のいままでの見方を覆すといった謳い文句で人気を獲得していたくらいの認識でしたが、まさか大賞を取るとは。でも、実際に面白かったです。

いままで東西冷戦時のプロパガンダに紐づけて論じられることの多かった独ソ戦ですが、実際には歴史で、特に日本の歴史で学ぶようなものではなく、もっと幼稚で悲惨なものだったというのが主な内容です。大きい戦いの作戦についていくつか触れられていますが、意外にも事実はショボい作戦だったとか、たまたまうまくいったとか、勝手に思い込んで自滅したとか、そんな内容です。日本では当時の日本軍の精神論について批判的に論じられることが多いと思いますが、本書の内容を見る限りでは大差ありません。一部の指導者や軍の理想が先行して、ろくな戦い方をしていないというところは万国共通なんですね。特にドイツの場合は人種的な絶滅戦争という側面も持ち合わせていたわけで、そういった信念が最終的に大きな被害をもたらしたというのは悲劇でしかありません。

歴史は常に動くというか、新たな検証結果が出てくると教科書に載るものが変わるのはよくあること。それ自体を否定するのではなく、なぜ検証結果が変わったのかといったことや新たな事実に対する中立な視点からの再理解は重要です。一時期、鎌倉幕府はいい国作ろうではなくなったみたいですが、いまは1192という解釈もありということになっているようですし、検証しつくしたとも言える過去のことすらそうですから、この100年間の出来事なんてなおのこと新事実が出てきてもおかしくないですね。

そういった意味では、大学の教育の現場でもずっと同じ教科書を使っているのはよくないことですね。別に他意はありませんけど。

評価:★★★★☆

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