本の紹介『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』

ベストセラーです。

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)』[Kindle版] 柴田裕之訳、河出書房新社、2016年

ホモ・サピエンス、つまりいまの人類について書かれた本です。ネアンデルタール人などのいわゆる類人猿から進化したホモ・サピエンスがいかにして生き残り発展したかについて書かれています。特に2つの革命、すなわち認知革命と農業革命がキーワードになると思います。

認知革命というのは、「新しい思考と意思疎通の方法の登場」のことを指します。最も信じられている説によると、遺伝子の突然変異でまったく新しい種類の言語を使って意思疎通をしたりすることが可能になったというわけです。

とりわけ、この認知革命に関して面白いのは、これによって人類は「虚構」について語ることができるようになったというものです。虚構、すなわち架空の事柄について語る能力が身についたことでいろんなことが生まれてきたというわけです。これに従うと、法律も宗教も経済もすべて虚構、つまり想像上のできごとなのです。国家も権力も戦争もすべて虚構。組織も会社も虚構。確かにいずれも人間の思考の結果生まれたものです。うーん、おそるべし、認知革命。

次に農業革命。人類がいくつかの動植物種の生命を操作するようになって、食料生産は劇的に生産性を上げたというものです。それによって食料を求めてさまよう必要がなくなり、定住が始まった。そして小麦、米などの生産が始まって現代に至るというわけです。

このいくつかの動植物種の生命を操作するというのは、ちょっと考えるとけっこうえげつないです。例えば、鶏。食用の鶏は生まれてからすぐに身動き取れないくらいのゲージに入れられてひたすら餌を与えられる。食べる、太る、鶏肉。食べる、太る、鶏肉。豚も牛もうまれてすぐ親から引き剥がされ、食べる、太る、肉になる。もうパワハラ、人権侵害どころの話じゃありません。普段はあまり意識しませんが、ここまで露骨に食物連鎖を作り出すというのもちょっと気持ち悪いものがありますね。

その他、科学の成立、文化の形成といったものについて、人類史を紹介しています。大航海時代以降の文明論にも触れられていて、これは支配されることになる民族にとってはいい迷惑、侵略する方はよりよい生活を与えてやったんだからいいだろ?みたいな話なんかも多く紹介されています。

普段は普通に考えている歴史や生活も見方を変えると違う側面が見えるという点では非常に勉強になりました。最後の方はやや冗長な感じになりましたが、4つ星評価です。

評価:★★★★☆

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